冬のごちそうとして知られる「しし鍋」ですが、「しし肉は臭みがありそう」「硬くて食べにくいのでは?」といった不安から、ご家庭で調理するのをためらっていませんか。
美味しいしし鍋を作る秘訣は、正しい下ごしらえにあります。
この記事では、しし鍋について基本的な知識から、気になるしし鍋とぼたん鍋の違い、そしてイノシシ肉の特徴まで詳しく解説します。
さらに、しし肉の臭みを完全に取り除く血抜きの方法、圧力鍋などを活用して肉を柔らかく仕上げるコツ、定番の味噌を使った絶品レシピ、さらには適切な保存方法まで、美味しいしし鍋を作るための情報を網羅的にご紹介します。
- しし肉特有の臭みを取るための具体的な下ごしらえ方法
- 硬いイノシシ肉を驚くほど柔らかく調理する秘訣
- 初心者でも失敗しない、定番の味噌しし鍋レシピ
- しし肉の鮮度を保つための正しい保存と解凍の知識
美味しいしし鍋は下ごしらえが重要

- そもそも、しし鍋について知ろう
- しし鍋とぼたん鍋の明確な違いは?
- しし肉と呼ばれるイノシシ肉の特徴
- しし肉の臭みを消すための下準備
- 臭み消しの基本は丁寧な血抜き
- しし肉を柔らかく仕上げるコツ
そもそも、しし鍋について知ろう
しし鍋とは、イノシシの肉(しし肉)を主役にした日本の伝統的な鍋料理です。
特に、寒さが厳しい冬の季節に食べられることが多く、山間部の郷土料理として古くから親しまれてきました。
野菜やきのこ、豆腐など、旬の食材と共に煮込むことで、イノシシ肉の濃厚な旨味と野菜の甘みが溶け合い、体の芯から温まる深い味わいを楽しめるのが魅力です。
ジビエ料理の中でも比較的挑戦しやすく、栄養価の高さからも注目されています。
豆知識:なぜ「しし」と呼ばれるの?
イノシシを「しし」と呼ぶのは、古来の日本で獣の肉全般を指す言葉が「しし」だったことに由来します。
鹿(かのしし)や猪(いのしし)のように区別され、その名残が今でも「しし肉」という言葉に残っているのです。
しし鍋とぼたん鍋の明確な違いは?

「しし鍋」と「ぼたん鍋」、どちらもイノシシ肉を使った鍋料理ですが、この二つに明確な料理内容の違いはほとんどありません。
言ってしまえば、呼び方が違うだけで、基本的には同じものを指します。
では、なぜ「ぼたん鍋」という優雅な名前で呼ばれるのでしょうか。
その理由は、肉の盛り付け方にあります。
薄切りにしたイノシシの赤身肉を、大皿の上に牡丹(ぼたん)の花のように美しく並べて提供することから「ぼたん鍋」と呼ばれるようになりました。
見た目の華やかさから、おもてなしの席などでも喜ばれる呼び名です。
つまり、「しし鍋」は料理そのものを指し、「ぼたん鍋」はその美しい盛り付け方に由来する愛称、と考えると分かりやすいですね。
どちらも美味しいイノシシ鍋であることに変わりはありません。
しし肉と呼ばれるイノシシ肉の特徴
イノシシ肉(しし肉)は、普段食べ慣れている豚肉とは一味違った、多くの魅力を持つ食材です。
主な特徴は、赤身の濃厚な旨味と、甘みがありながらもさっぱりとした脂身にあります。
野生の環境で育つため、筋肉質で引き締まった肉質を持ち、噛むほどに深い味わいが広がります。
特に脂身は、豚肉の脂とは異なり、融点が低くサラッとしているため、煮込んでもしつこくならず、上品なコクと甘みを楽しめるのが特徴です。
イノシシ肉と豚肉の栄養素比較
イノシシ肉はジビエの中でも栄養価が高いとされています。
文部科学省の「日本食品標準成分表」のデータによると、特にビタミンB群や鉄分が豊富であるという情報があります。
栄養素(100gあたり) | イノシシ肉(脂身付・生) | ぶた肉(肩ロース・脂身付・生) |
---|---|---|
カロリー | 268 kcal | 253 kcal |
たんぱく質 | 18.8 g | 17.1 g |
鉄分 | 2.5 mg | 0.6 mg |
ビタミンB12 | 1.7 μg | 0.5 μg |
ご注意:上記の数値はあくまで一例です。個体差や部位によって栄養価は変動しますので、参考情報としてご覧ください。
しし肉の臭みを消すための下準備

イノシシ肉を調理する上で、多くの方が最も気にされるのが特有の「獣臭さ」ではないでしょうか。
しかし、この臭みは適切な下準備を行うことで、ほとんど気にならないレベルまで抑えることができます。
しし肉の臭みの主な原因は、肉の中に残っている血液です。
猟師さんが獲物を仕留めた後、いかに迅速かつ丁寧に血抜き処理を行うかで肉質は大きく変わりますが、家庭で調理する際にも、この「血抜き」を意識した下ごしらえをすることが、美味しくいただくための最も重要なポイントとなります。
臭み消しの基本は丁寧な血抜き
家庭でできる、しし肉の臭みを抜くための基本的な血抜きの方法を2つご紹介します。
どちらも簡単なので、ぜひ実践してみてください。
方法1:塩水を使った血抜き
最もポピュラーで効果的な方法です。塩の浸透圧を利用して、肉内部の血液を外に追い出します。
- ボウルにイノシシ肉とたっぷりの水を入れ、軽く揉むようにして表面の汚れや血を洗い流します。
- 水を捨て、肉に対して大さじ1程度の塩を振りかけ、よく揉み込みます。
- 再び水を注ぎ、優しく洗います。水が赤く濁るはずです。
- この工程を、水がほとんど濁らなくなるまで5~6回ほど繰り返します。肉が白っぽくなれば血抜き完了のサインです。
方法2:お酒(日本酒)を使った下処理
血抜きをした後、さらに念入りに臭みを消し、肉を柔らかくしたい場合におすすめの方法です。
日本酒のアルコール分が臭み成分と共に揮発し、風味を良くしてくれます。
- 上記の塩水を使った血抜きを完了させます。
- 肉の水気をキッチンペーパーでしっかりと拭き取ります。
- ビニール袋に肉を入れ、肉全体が浸るくらいの日本酒を注ぎます。
- 袋の空気を抜き、口を縛って軽く揉み込み、冷蔵庫で最低2~3時間、できれば一晩寝かせます。
それでも臭いが気になる場合は
適切な下処理をしても強い臭いが残る場合、残念ながらお肉自体の状態があまり良くない可能性があります。
無理に食べず、廃棄することも検討しましょう。
しし肉を柔らかく仕上げるコツ

イノシシ肉は筋肉質で硬い部位も多いため、「柔らかく」仕上げるための工夫が美味しさを左右します。
血抜きと合わせて以下のポイントを押さえましょう。
最大のコツは、「弱火でじっくり煮込む」ことです。
強火で一気に加熱すると、肉のタンパク質が急激に収縮し、硬くパサついた食感になってしまいます。
鍋が沸騰したら必ず弱火に落とし、コトコトと時間をかけて煮込むことで、筋繊維がゆっくりとほぐれ、驚くほど柔らかく仕上がります。
また、調理前に味噌や塩麹、ヨーグルトなどに漬け込んでおくのも非常に効果的です。
これらの発酵食品に含まれる酵素が肉のタンパク質を分解し、肉質を柔らかくしてくれます。
実践編!しし鍋の下ごしらえとレシピ

- 圧力鍋を使った時短下ごしらえ術
- 定番の味噌で煮込む絶品しし鍋
- おすすめのしし鍋アレンジレシピ
- しし肉の正しい冷凍と冷蔵保存方法
- 完璧なしし鍋は下ごしらえで決まる
圧力鍋を使った時短下ごしらえ術
「じっくり煮込む時間がない」という方には、圧力鍋の活用がおすすめです。
短時間で肉の芯まで熱を伝え、硬いスジ肉などもとろけるように柔らかくすることができます。
しし鍋を作る前に、下処理を済ませたイノシシ肉の塊と、長ネギの青い部分や生姜のスライスといった香味野菜、そして肉がかぶるくらいの水(またはお酒)を圧力鍋に入れ、20分ほど加圧調理します。
これだけで、煮込み時間を大幅に短縮できるだけでなく、より確実に臭みが抜けて柔らかい肉質になります。
この下茹でした肉を、しし鍋の具材として使用してください。
定番の味噌で煮込む絶品しし鍋

しし鍋の味付けとして最も人気があり、相性が良いのが味噌です。
味噌の持つ豊かな風味とコクが、イノシシ肉の力強い旨味をしっかりと受け止め、全体の味をまとめ上げてくれます。
また、味噌の風味が、万が一残ってしまったわずかな臭みもマスキングしてくれる効果も期待できます。
味噌は、コクのある赤味噌と、まろやかな白味噌をブレンドして使うのがおすすめです。
お好みの割合で調整することで、ご家庭ならではの味わいを見つけるのも楽しいでしょう。
出汁は昆布やカツオで丁寧にとると、より一層深みのある仕上がりになります。
おすすめのしし鍋アレンジレシピ
ここでは、初心者でも美味しく作れる基本的な味噌しし鍋のレシピをご紹介します。
【基本の味噌しし鍋】(4人前)
材料:
- イノシシ肉(薄切り):400~500g
- 白菜:1/4株
- 長ネギ:1本
- ごぼう:1本(ささがきにして水にさらす)
- しいたけ、しめじなど:お好みで
- 木綿豆腐:1丁
- こんにゃく:1枚(下茹でしてアクを抜く)
割り下:
- だし汁:800cc
- 味噌(赤・白合わせ):120g程度
- みりん、酒:各大さじ2
- 砂糖:大さじ1
- しょうが(すりおろし):小さじ1
作り方:
- イノシシ肉は、前述の方法で丁寧に血抜きをしておきます。
- 鍋にだし汁と調味料を全て入れ、火にかけて味噌をよく溶かします。
- 鍋が煮立ったら、ごぼう、白菜の芯、長ネギなど、火の通りにくい野菜から入れていきます。
- 野菜がしんなりしてきたら、きのこ類や豆腐、こんにゃくを加えます。
- 全体に火が通ったら火を弱火にし、イノシシ肉を一枚ずつ広げ入れます。
- 肉の色が変わったら食べ頃です。煮すぎると硬くなるので注意しましょう。
お好みで、食べる際に山椒や七味唐辛子をかけると、風味が引き締まり、より一層美味しくいただけますよ。
しし肉の正しい冷凍と冷蔵保存方法

一度に使い切れなかったしし肉は、鮮度を落とさないように正しく保存方法を実践することが大切です。
冷蔵保存の場合
ドリップ(肉汁)が出ないようにキッチンペーパーで肉の水分をよく拭き取ります。
その後、空気に触れないように一枚ずつラップでぴったりと包み、密閉できる保存袋に入れてチルド室やパーシャル室で保存します。
保存期間の目安は2~3日です。
冷凍保存の場合
長期間保存したい場合は冷凍が適しています。
冷蔵保存と同様に、1回に使う分量ずつ小分けにしてラップで包み、冷凍用の密閉袋に入れて空気をしっかり抜いてから冷凍庫へ入れます。
なるべく急速に冷凍することで、品質の劣化を防げます。
冷凍保存の目安は約1ヶ月ですが、美味しいうちに早めに使い切ることをおすすめします。
解凍のポイント
冷凍した肉を解凍する際は、冷蔵庫に移してゆっくりと時間をかけて解凍するのが基本です。
常温解凍や電子レンジでの急速解凍は、旨味成分であるドリップが大量に流出し、味や食感が損なわれる原因になるため避けましょう。
完璧なしし鍋は下ごしらえで決まる
この記事では、美味しいしし鍋を作るための下ごしらえのコツから、具体的なレシピ、保存方法までを詳しく解説しました。
最後に、ポイントをリストで振り返ります。
- しし鍋としし鍋は基本的に同じ料理
- 呼び名の違いは肉の盛り付け方に由来する
- イノシシ肉は赤身の味が濃く脂に甘みがあるのが特徴
- 栄養面ではビタミンB群や鉄分が豊富とされる
- 美味しさを左右する最大の鍵は下ごしらえにある
- 臭みの主な原因は肉に残った血液
- 家庭での下処理は塩水を使った血抜きが最も効果的
- 水が濁らなくなるまで何度も繰り返すことが重要
- 日本酒に漬け込むとさらに臭みが抜け風味が向上する
- 肉を柔らかくする秘訣は弱火でじっくり煮込むこと
- 圧力鍋を使えば下茹で時間を大幅に短縮できる
- 味付けはイノシシ肉と相性抜群の味噌が定番
- 赤味噌と白味噌をブレンドすると味に深みが出る
- 肉は必ず最後に加え煮すぎないように注意する
- 正しい保存方法を実践すれば鮮度を保てる